投稿日: 2026-11-04
えだ歯科医院 院長 吉田幸司
先日、ある動画を見て、とても考えさせられることがありました。
その動画で初めて知ったのが、「チー牛」という言葉です。
人の外見や雰囲気を揶揄するために使われることがある、インターネット上の言葉だそうです。
決して気持ちの良い言葉ではありません。
また、その動画には、特定の性格や振る舞いを親の育て方と結びつけるような、慎重に考えるべき部分もありました。
それでも、動画が投げかけていた一つの問いが、強く心に残りました。
「子どもに、失敗しても立ち直れる大人になってほしいと願いながら、私たち親は、子どもから失敗する機会を奪っていないだろうか?」
私自身、3人の子どもを育てる父親として、思い当たることがあります。
「危ないから、やめておこう」
「失敗するかもしれないから、こうした方がいいよ」
「時間がないから、お父さんがやってあげるね」
子どもを大切に思うからこそ、つい先回りしてしまうことがあります。
でも、失敗しないことと、失敗から立ち直れることは、同じではありません。
子どもが初めて何かに挑戦するとき、うまくいかないことは珍しくありません。
友達に話しかけたけれど、思うように会話が続かなかった。
自分で計画を立てたけれど、予定通りに進まなかった。
勇気を出して挑戦したけれど、失敗してしまった。
親としては、できるだけつらい思いをさせたくないものです。
しかし、そうした経験を通して、自分なりに考え、工夫し、もう一度挑戦することもできます。
大切なのは、何でも失敗させればよいということではありません。
重大な事故や取り返しのつかない危険から子どもを守ることは、大人の大切な責任です。
そのうえで、安全な範囲で子どもが自分で選び、挑戦し、うまくいかなかった経験から学べる機会を大切にしたいと思います。
私はこれまで、選択理論心理学やファミリーコーチングを学んできました。
その中で大切にしている言葉があります。
I have control.
自分自身の行動や選択に責任を持つ、という考え方です。
以前、家族で大切にしたい言葉を考えたとき、こんな表現にたどり着きました。
「人生の操縦桿は、自分で握る。家族は、いつでも応援団。」
私は以前、海上自衛隊で航空機の操縦士をしていました。
航空機を安全に飛ばすためには、知識や技術だけでなく、自分で状況を判断する力が必要です。
そして、機長一人ですべてを成し遂げるわけではありません。
仲間と情報を共有し、互いの力を生かしながら、安全な飛行を実現していきます。
子育ても、どこか似ているように感じています。
親が子どもの人生の操縦桿を握り続けるのではなく、子ども自身が少しずつ握れるように支える。
そして、困ったときには、いつでも相談できる存在でありたいと思っています。
私は3人の子どもたちに、勉強ができる人、仕事ができる人になること以上に、大切にしてほしいことがあります。
一つは、人生で困難に出会ったとき、
「きっと自分には乗り越えることができる」
と思えること。
もう一つは、
「一人では難しいとき、人の力を借りることができる」
ということです。
自立とは、何でも一人でできるようになることではないと思います。
自分で考え、自分で選び、自分で行動する。
そして、自分だけでは難しいときには、誰かに助けを求める。
助けてもらったら感謝し、今度は自分が誰かの力になる。
そんな関係を築ける人になってほしいと願っています。
だからこそ、親である私自身も、子どもたちの挑戦を先回りして奪うのではなく、必要なときには支え、失敗したときにも安心して戻ってこられる存在でありたいと思います。
この考え方は、私たちが日々行っている歯科診療にもつながっています。
例えば、歯科医院が怖くて、なかなか診療台に座れないお子さんがいたとします。
大人としては、早く診察を進めたいと思うかもしれません。
しかし、子どもにとっては、知らない場所で、知らない人にお口の中を見せること自体が、大きな挑戦です。
そんなとき、まずは子どもの気持ちを理解することから始めたいと思っています。
「何が怖いのかな?」
「今日はどこまでできそうかな?」
「まずは椅子に座ってみようか?」
一つひとつの経験を通して、少しずつ安心感や自信を育んでいく。
もちろん、治療の緊急性やお子さんの年齢、発達段階によって、必要な対応は異なります。
安全と健康を守るために、大人が判断しなければならない場面もあります。
それでも、できる限り子どもの気持ちを尊重し、自分から挑戦できる環境をつくることを大切にしたいと思います。
歯科医院が、単にむし歯を治す場所ではなく、子どもたちが「自分にもできた」と感じられる場所にもなれたら嬉しいです。
子育てには、いつも正解があるわけではありません。
私自身も、子どもたちへの関わりを振り返りながら、試行錯誤を続けています。
子どもを守りたいという思いも、子どもに挑戦してほしいという願いも、どちらも大切です。
だからこそ、何かを禁止したくなったとき、少しだけ考えてみたいと思います。
「これは本当に危険だから止める必要があるのだろうか?」
「それとも、私が失敗を見たくないだけなのだろうか?」
「子ども自身が考え、選べる余地はないだろうか?」
「失敗させない親」ではなく、「失敗しても大丈夫だと思える関係をつくる親」へ。
そして、子どもたちが困難に出会ったとき、自分の可能性を信じ、必要なときには周囲の人の力も借りながら、未来に向かって歩んでいけるように。
私も、父親として、そして歯科医師として、これからも学び続けたいと思います。
えだ歯科医院
院長 吉田 幸司
私たちは、一人ひとりの価値観に寄り添い、健康を守り育てる歯科医療を大切にしています。
